20000101


WTO会議決裂は画期的

国際的連携で日本農業守る

小橋 暢之・全国農協中央会農政部長に聞く


 昨年末、世界貿易機関(WTO)閣僚会議が決裂した。反ダンピング措置など、自国利益を最優先する米国の横暴に対し、途上国や欧州連合(EU)などが強く反発し、米国の国際的信用は失墜した。国際会議が大国だけの利害で決まる時代が終わりつつあることを示す、画期的なものであった。米国は農業分野などの二国間交渉で、各国に自由化を押しつけようとすることが予想されるが、これをき然とはねのける自主的な外交姿勢が求められている。WTO会議の意義などについて、小橋暢之・全国農協中央会(全中)農政部長に聞いた。


 昨年のWTO閣僚会議は三回目だが、八六年のウルグアイ・ラウンド準備会議で「例外なき自由化」につながる交渉項目決定を行ったことに相当する、非常に重要な会議だった。
 開催前に閣僚宣言案をめぐって調整できず、ぶっつけ本番になった経過がある。それほど、各国はこの会議を重視していた。とくに農業分野では、米国や輸出国グループとEU、日本とで「環境・国土・景観の保全など、農業の多面的機能」をめぐる対立があった。数次にわたり「合意案」が提出されたが、最終的に決裂して中断した。

家族農業への支持広がる


 その中で、「多面的機能」に対する各国の理解は広がった。だが、最後まで輸出国は「多面的機能」を盛り込むことにきわめて強い抵抗を示した。米国は、これを通すと「何が出てくるかわからない」という気分があった。またEUは、特に輸出補助金についての立場は譲れず、米国などと対立した。米国は「農業も工業製品と同じルール」でという主張を、最後まで続けた。
 全中は会議に代表団を送り、十一カ国の代表団と会合を行った。また、国際農業生産者連盟という団体とともに「家族農業者サミット」を開催した。ここでは米国、EU、豪州、インドなど、国を代表する人物が演説を行った。さらに日本とEU、米国のファーマーズ・ユニオンが農業の多面的機能の重要性に関するセミナーを開いた。これには実に多くの参加があり、大きく評価され支持も広がった。

国際世論も「米国が悪い」

 米国は大統領選挙もあり、票目当てに途上国の労働問題をしつように言い、いっせいに途上国の反発をかった。一方で、自分たちが弱い産業については、反ダンピング措置を乱発する。これに対して、日本やインドが反発する。米国の反ダンピング措置をWTOで取り上げることを主張したが、米国はいやがって、クリントン大統領は小渕首相に電話までした。
 実は、農業分野では米国とEUが妥協案をつくりかけたが、これに他の輸出国が反対した。以前は米国とEUが妥協すればそれに従ったが、それほど、途上国の交渉態度は主体的になっている。要するに、交渉を一国や二国の力で押さえ込むことができない状況になったということだ。
 ラウンドの合意形成方式も、今までのように、主要国会合だけで決めていくやり方は通らなくなるだろう。そういう意味で、画期的、歴史的な会議だったのではないか。
 今度はジュネーブで新ラウンドに向けた交渉が行われる。しかし、合意があるのは、WTO農業協定第二〇条で決まっていること、つまり、次期交渉が保護削減の過程であることや、どんな約束が必要かということだけだ。しかし、それだけでは交渉は進まないので、交渉に関する合意が必要なのだが、それができていない。先行きは不透明だ。
 日本のマスコミの一部には、「米国は最初から合意を望んでおらず、農業・サービスだけを先行させようとした」という声もあるが、それはどうか。ラウンドの立ち上げが合意事項で、そのための閣僚会議なのだから。世界の世論も「米国が悪い」となっている。日本としても不本意な合意よりは、決然と決裂した方がよかった。

各国共存の新ルールを

 いずれは交渉が立ち上がるだろうが、われわれからすると三つの課題がある。
 一つは、新ルールは農産物の輸出国も輸入国も、先進国も途上国も、共存して発展していけるルールにすべきだ。そのために、農業の多面的機能を認識して、EUや拡大EUに含まれる東ヨーロッパと連携する。
 二つ目に、WTO加盟の三分の二が途上国なので、途上国との関係を深めていく。これは緊急の課題になっている。
 三つ目に、今回初めて非常事態が宣言されたが、各国とも非政府組織(NGO)の意思を無視できない。集まっているNGOは環境保護とか労働問題、人権保護などの団体だが、それが一つになって性急な自由化に反対している。これとの相互理解・連携も課題になっている。日本でも、大衆的なものが生まれてくるのではないか。
 これらの課題に沿って、運動を進めていく。


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