日本労働党政府綱領(案)

 (四)政治制度、憲法問題について
−−新しい民主主義国家の実現をめざす

(2)地方自治を充実させ、地方分権を推進する


1、地域における民主主義の拡充としての「地方分権」

 国土のバランスある発展と地方の振興、国民生活の豊かさの実現、そして地域における民主主義の基盤の拡充、こうしたことを目標にして真の地方分権を進める。
 財界や小沢、細川、中曽根各氏ら政治家、各政党、そして第3次行革審や民間政治臨調など、各方面から地方分権の推進が主張されています。これらの見解のなかには、権限の地方への委譲、地方自治体の財政自主権の強化など、地方分権の実現にとって大事なものもないわけではありません。しかし、そこにはわずかばかりの現状の地方自治すら骨抜きにする危険な内容が含まれています。
 その1つは、大国政治を実現する手段として地方分権を位置づけていることです。
 たとえば民間政治臨調は、「地方分権に関する緊急提言」(92年12月)のなかでつぎのようにいっています。「中央政府主導の下に経済先進国に『追いつき・追い越せ』と猛進してきた日本の近代化は、いまや達成された。そればかりか国際社会に重きをなす国となった。しかしながら近代化過程でつくられた国内の政治・行政構造は、状況に合わせて変革されておらず、このことが中央政府の行動の足かせともなり、国際社会の変化への対応を遅らせている。…国内政治・行政の分権化こそ、中央政府の国際社会への対応能力を高める手法である」
 「国際社会への対応能力を高める」というように、冷戦後の世界で大国間の再分割の争いに対応できるような「政治のリーダーシップ」の実現こそがねらいで、大国政治をささえるために国内政治・行政の分権化を進めるということでしかないのです。こうしたことでは真の地方分権が実現不可能なことは明らかです。
 いまの一連の「改革」は、財界などの目的に沿う限りでやられており、それ以上のものになることはありえないのです。
 第2に指摘しなければならない問題は、分権化といいながら市町村の合併や道州制導入など地方自治体の再編を推進しようとしている点です。たとえば、小沢一郎氏は、「国から委譲された権限に耐えうる体力がなければならない」という理由で「現行の市町村に代えて、全国を300ほどの自治体に分割する基礎自治体の構想」を提唱しています。
 市町村合併など自治体再編は、自治体の経費を削減し、また財源の集中投資を可能とします。しかし、地域住民こそ、主体であり、その政治参加、住民自治の拡充こそが地方自治を成立させている基本的な要素であることがまったく無視されています。市町村合併や道州制をにらんだ自治体再編は、住民の直接請求や首長の直接公選など戦後の民主主義的な地方自治制度を切り崩すことになりかねません。
 その他、公共部門での自治体の役割の低下、そして住民への公共サービスの減少ににつながる「市場原理」の導入や規制緩和の促進など批判されるべき誤った見解が地方分権の名の下に流布されています。
 こうした財界などが積極的に推進する地方分権に反対です。それは実質上「中央統制」を強め、地方自治を骨抜きにし、中央集権的な「強い国家」づくりに奉仕するための制度再編です。それは同時に戦後憲法で定めている国民主権や「地方自治の本旨」に背くものです。


2、国の権限の地方への委譲

 住民生活に直接関係する行政全般を総合的に推進できるように地方自治体に国の権限の委譲を進めます。
 基本的に国は、外交や安全保障、法律の制定、全国が守るべき最低限の環境基準などの決定、全国的な情報・通信、交通網の一体化などを受け持ち、住民生活にかかわる仕事全般を地方に委ねるようにします。また、機関委任事務を廃止します。国の地方自治体への関与は基本的に行わず、「通達」「指示」あるいは助言勧告などによる統制あるいは管理、また人事の天下りなどもいっさい禁止します。しかし、憲法の保障する医療、福祉、社会保障など国民生活を営む上で基本的な分野で国はナショナル・ミニマムをはたす責任があり、こうした方面では、地方自治体の財政状況と基本的に関係なく、どの地域でも同一水準の公共サービスが提供される措置をとります。
 地方自治体は、福祉、教育、都市計画、産業振興、環境保全など地域住民の暮らしと経営に直接かかわりのある行政を総合的に担うことにします。
 そのために、許認可など国の権限を地方自治体に委譲し、税財源配分も見直し、自治体の財政自主権を強化します。


3、市町村を基礎自治体に、議会を強化し、住民自治を発展させる

 市町村を地方自治の基礎単位として、これを中心に据え権限をここに付与するようにします。住民の生活の利便を図るため、住民の意思で、自治体連合をつくり、自主的な連合行政を進めます。都道府県制度は残しますが、権限の市町村への大幅委譲を進めます。
 地方自治を強化する上で地方議会の役割は重要です。地方議会が、住民の要求を汲み取り、それを行政に反映させるため計画を立案し、予算・条例などを審議し決めなければなりませんが、今日の地方議会は、地方自治法でその権限が縛られ、実際的な政策立案機能の点でも問題が多いのが実際です。すでに述べた国が管轄する以外の一切の事項について、自治体議会が決定できるよう条例制定権など権限を大幅に強化します。
 また、首長・行政機関への議会の権限を強化します。地方議会は、行政をチェックし、監督するという重要な役割を本来持っています。しかしながら、地方自治法上の制約からチェック機能には限界があり、行政・首長と「癒着」している地方議会が当たり前という状況になっています。
 首長の多選を禁止します。
 首長・議員に対する住民のリコール権を拡大・強化します。
 住民の意思で、住民が自治体の政策形成に直接参加するような仕組みとします。かつて高知県窪川町で「原発建設に対する住民投票条例」という制度を設けましたが、こうした制度を拡充し、重要な政策課題や条例について住民の意志を選挙で問う「政策選挙」制度、住民による行政への民主的コントロールを強化するために、オンブズマン制度の導入、直接請求制度の改善、情報公開の一層の推進なども重要です。


4、自治体の財政自主権の強化と地方財政改革

 自治体の課税自主権を拡大し、地方税の対象・税率についてはそれぞれの自治体の裁量に委ねるものとします。したがって、現在自治大臣の許可が必要になっている法定外の普通税の創設についても自治体の裁量権とします。
 地方自治体に対する統制手段になっている起債許可制度を廃止し、地方債の発行については自治体の権限とします。
 地方財源を拡充するために、所得税と住民税の共通税化および法人事業税の外形標準課税化などを進めます。法人事業税は現在都道府県税収の40%以上を占める重要財源ですが、景気動向によって税収が大きく変化するという弱点を持つので外形標準課税に改めるべきであるという提案が府県からなされているのでこれを採用します。前者は、現行の所得税・住民税の問題点を是正し、かつ地方財源を拡充するための措置で、自治体が課税・徴収し、一定部分を国に上げるという方式にします。
 現行の地方交付税制度は、自治体間で税収の差があるのが実際である以上財政調整は必要であり、これを存続させます。しかし、この仕組みが中央統制を強める手段になっていることを考慮し、地方自治体の意志が反映されるよう改革します。戦後のシャープ勧告にもとづいてつくられた「地方財政委員会」のような制度を作り直し、交付税率や配分基準、また「基準財政需要額」の算定(現在中央の自治官僚が握っている)について決定できるようにします。また、近年、国庫負担金の廃止分を交付税で算入したり、あるいは地方債の元金の一部や利子を交付税でみるなど「地方交付税の補助金化」が進んでいますが、これは地方の財政負担を増大させ、また中央統制を強めるので廃止します。
 自治体の自主的な政策展開を阻害し、また中央依存をもたらしている現行の国庫補助金システムを廃止します。医療、福祉、社会保障など国民生活を営む上で基本的な分野で国はナショナル・ミニマムをはたす責任があり、その範囲で自治体へ特別の支援を行うものとします。


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