2000年の年頭にあたって

日本労働党中央委員会議長 大隈 鉄二


 新年おめでとうございます。
年頭にあたり全国の労働新聞読者の皆さん、労働者の皆さん、進歩を望む各界各層、各政党の皆さんに、また、全国の労働党党員の皆さんに、日本労働党中央委員会を代表して、連帯のあいさつを送ります。

 今年は二十世紀最後の年です。この世紀の前半で、世界の資本主義強国は、資源や市場、植民地の争奪を繰り返し、二度も世界戦争を引き起こしました。「祖国防衛」を口実に、労働者階級と人民の自由を圧殺し、戦争に動員して互いに殺りくさせ、植民地や弱国を蹂躙(じゅうりん)、支配し、全世界に大きな災厄をもたらしました。
 しかし、第一次大戦は、ロシアでレーニンの党が指導する労働者、農民、兵士の革命政権を誕生させました。社会主義・ソ連は急速に発展し、植民地での闘争を大きく前進させ、二次大戦を経て、東欧、アジア、その他へと広がって、世界的な体制にまで発展しました。
 今日、社会主義運動は、ソ連や東欧諸国が資本主義に移行したことで、歴史的な敗北を経験し、一時的後退を余儀なくされています。しかし、二十世紀の世界戦争と革命という巨大な現象が、資本主義の危機と関連して起こっていることは、誰も否定できません。
 九七年のアジアの通貨下落からから始まって世界を巻き込んだ、いわゆる「二十一世紀型」危機は、ドル支配を頂点とする世界資本主義体制のぜい弱性を示すものです。独り勝ちといわれる米国の好況、株高も、危ういバブル経済に外なりません。
 日本労働党は、ドル支配の世界資本主義体制の危機は深く歴史的な大激動は避けがたいと見ています。とりわけ日本はぜい弱性をもっています。こうした観点は、われわれの革命的楽観主義の根拠にもなっています。
 以下に、若干の情勢認識や戦術問題、課題などについて述べます。

(1)
 金融支配、ヘッジファンドなどマネーゲームを頂点に、いわゆる「グローバル経済」の進行下で、世界的な巨大企業が生き残りをかけた激しい競争戦を繰り広げている。資本提携、吸収・合併、買収などでのさらなる集中が進んでいる。大規模な合理化・リストラで労働者階級に犠牲を転嫁している。また各国政府は、巨大企業を支援し、首切りを奨励し後始末を引き受け、税や社会保障費などコスト削減に血道をあげている。
 こうして、ひとにぎりの富める者だけが富み、世界の大多数が零落させられ、その格差はとてつもなく拡大している。先進各国内部でも、労働者が次々と街頭に放り出され、農民と中小商工業者が破産に追いやられている。
 経済危機と政治危機は、強国による弱小国に対する浸透、圧迫と干渉、支配の機会となり、反支配の闘いも起きている。こうして各種の矛盾は激化している。
 米国は軍事力に頼って、世界支配のための悪あがきをしている。だが、ユーゴ空爆の経過と結果が示したように、大国間の矛盾を拡大している。
 当面する危機が、もはや資本主義の枠内の改良的な処方せんでは乗りきれず、なんらかの激変なしにおさまるものではないことがますます明らかになっている。
 わが国経済は、バブル崩壊から十年もたつのに、しかも膨大な財政投入にもかかわらず、いっこうに景気回復の展望が見えない。結果、赤字累積はGDPを超え、世界最大の借金国となって、限界に達しつつある。
 自民党は自由、公明党と連立し、巨大与党となったが、臨時国会ではそのもろさを露呈した。国民の不満は高まっている。総選挙に打って出ようにも自民党には展望がない。新たな政治再編も避けがたいのである。
 沖縄の米軍基地強化を絡めてサミットを政権浮揚策と位置づけたが、かえって深みにはまった。沖縄県民の力強い闘いの現実と、やがてそれに呼応する全国での闘いの発展は、小渕内閣の命取りとなる可能性がある。
 要するに、小渕政権は行き詰まる中で、あれこれと危機打開策を見いだそうとしているが、選択の余地はあまりなく、展望は見えない。

(2)
 したがって、野党を含む政治勢力が、国民の側に立って、窮地に陥った小渕政権をうち破るために本当に闘えるかどうかにかかっている。
 だが、本当に闘おうとするなら、野党は九三年の細川政権成立過程とそれ以降から今日まで、敵の策略を見抜けず、翻弄(ほんろう)され続けてきた経験を真剣に総括する必要があろう。
 周知のように八〇年代後半から九三年にいたる過程で、戦後一貫してわが国政治を単独で支配してきた自民党は、存亡の危機に直面した。世界最大の債権国となる中で、市場開放、国際貢献は至上命題となり、自民党はもはや農民や中小商工業者を政治基盤として引きつけておく従来の政治を続けられなくなった。リクルート事件は、自民党の末期症状を示した。
 そうした中で、九三年非自民連立政権成立に主要な役割を演じることになる細川が新党をつくり、小沢らが自民党の中核派閥を割って「改革フォーラム 」を旗揚げした。
 また、財界は直接的にも、野党議員、労働組合を巻き込んで民間政治臨調を立ち上げ、政治再編を推進した。マスコミは、「保守新党」を大々的に宣伝し、公然と自民党政治批判さえ行って、非自民連立政権誕生に向け世論をあおった。
 こうして九三年七月、総選挙で自民党単独支配が崩壊し、細川連立政権が成立する。非自民連立政権を成立させた背景に、自民党に対する国民の批判があったのは事実である。
 だが、見逃してならないのは財界、支配層の策略があったことである。彼らはきわめて意識的に、新たな国際環境に対応するために、末期症状を見せる自民党政治に代わって強力で安定した保守政権をつくろうと動いた。
 細川連立政権に参加した政党、社会党までもが、「積極面があった」などと言うが、それはまったく表面的な政治的評価に過ぎない。事実を直視するなら、小沢らが主導した細川政権は、小選挙区制導入、コメの自由化など保守懸案の悪政を一気に進めたというにとどまらない。保守勢力が危機の中から立ち直って、今日に至る財界のための政治再編を実現する、その最初の舞台回し役こそ細川政権の真の性格であった。
 九三年総選挙以前の野党各党は、その策略を見抜けず、翻弄された。最大野党であった社会党は、細川連立政権に参加、ついで自民、さきがけと組んで、村山首相を実現した。
 だが、当の社会党は存亡の危機に陥り、労働運動は無力化した。最近のガイドライン関連法などから改憲にいたる右傾化に歯止めがかけられない状況をつくられた。
 敵の側は、危機に際して彼らなりに歴史的経験に学び、政治理論に裏打ちされた政治戦略で野党と闘い、今も続けている。
 とりわけ重要なのは、保守政治、財界の政治支配が危機に当面したとき、中間政党は国民の側に立って闘い、打開する道を選ぶより、政権党と取り引きするという性格を持っているということである。中間諸政党の動揺、取り引きが、政治的革新を望む国民多数の要望を台無しにし、敵を延命させ、危機から立ち直る機会を与えるのである。
 窮地に陥った小渕政権と闘うに際しても、以降の闘いでも、このことをしっかりと踏まえておかねばならない。
 共産党は、「柔軟路線」をいっそう進め、民主党などとの共闘に展望を描いているが、主導権を取れず、ずるずると中間政党に追随することは、ヨーロッパの経験から見ても、また九三年以降の短い経験からも明らかである。共産党の「柔軟路線」では、当面する国民的課題の実現は不可能である。まして社会主義の実現など夢のまた夢と言わなければならない。

(3)
 当面する総選挙が年初に行われるか、サミット後になるかは定かではない。ただ、情勢が重大であること、九三年以降の政治的経験を踏まえての考慮がわれわれにも必要である。
 わが党はまだ若干の期間、国政選挙で独自候補を立てて闘うことはしない。
 したがって、昨年春以降、社民党がすでにふれたような九三年以降の失敗、数々の裏切りにもかかわらず、経験に学び深刻に反省し、政策を修正して、国民運動の有力な担い手として再出発するならば、当面する総選挙で社民党を支持することが可能であると、非公式ながら社民党中央の若干の人びとには伝えていた。
 しかし、二月に予定されている社民党の党大会の決定を見て最終的に判断するとしても、この時点では、社民党を支持する労働組合や社民党内の地方組織の強い要求にもかかわらず、社民党中央は応じる気配がないようである。昨年十二月十日集会で発表された「選挙政策の重点課題」を見るかぎり、村山政権時代の「安保堅持」方針の修正は曖昧(あいまい)にされている。労働者へのリストラ攻撃に断固反対する方針も明確でなく、中小商工業者の基本的利害にかかわる中小企業基本法改定には賛成した。農民の要求には、まったくふれていない、等々。
 したがって、この状況下での、わが党の社民党支持は困難であることは、明確にしておかねばならない。こうした態度については、わが党の地方組織にはすでに伝えた。

(4)
 自民党の亀井政調会長は、「首切りをする大企業を正面切って批判せよ」とマスコミや連合指導部をあおり、「規制緩和は行き過ぎだ」などと思わせぶりの発言を繰り返している。だが、自民党が財界の番頭の党である限り、できるわけがない。その真の狙いは、大衆の目をかく乱し、票をかすめ取ろうとする一種の危機対策に外ならない。いささかも幻想をもってはならない。
 自民党からはすでに民心が離れた。自民党は政権を維持するために、「利益分配」の財政依存型からますます「政治策略」重視の戦術に移っている。公明党を抱き込んだのもそれだが、明日は民主党というわけである。亀井発言も末期症状を示している。自民党を、来るべき総選挙で敗北に追い込まなければならない。
 わが党は、九三年来の政党再編の経験と現状を踏まえ、政治戦術に変更を加え、暴露の重点を中間諸政党に移すことを決定した。自民党が国民の支持を失って有権者のわずか二〇%程度の支持しか持たず、単独支配ができなくなっている今日、より効果的に支配層を孤立させ、情勢を発展させるためである。
 わが党は、自民党と取り引きし、延命に手を貸している公明党はもちろん、民主党も徹底的に暴露し、闘う。これらの党が、たえず支持者の批判を気にし、危機に瀕した自民党と取り引きが許されないような環境に追い込んでおかなければならない。公明党は敵側にすでに転げ込んだが、民主党もまた労働者階級が支持できるような政党ではない。
 わが党は、労働者階級と国民諸階層の断固たる闘いを支持し、統一戦線の発展を軸に政治の変革をめざす。われわれは、社民党の国民運動への復帰を心から望んでいる。
 また、わが党は、国政選挙に対する関心と対応を放棄してはいない。われわれは、小選挙区制度の下でも、むしろ、だからこそ、社民勢力を含む広範な政治勢力による「共同の模索」が必要な時期にすでにきたと判断している。当然ながらその場合、現状では社民勢力はその中心勢力である。
 こうしたことを提唱し前進させるためには、わが党はまだ力不足である。全国の工場と経営で労働者の要求を支持し、闘い、結びつきを強めながら、革命的な闘う労働運動の再構築と戦線の形成を図り、それと結合して、労働者階級の先進部分による党の強化に全力をあげたい。
 二〇〇〇年、歴史的激動の時代の要請に応え、進歩を望むすべてのみなさんと共同・連帯して、偉大な前進の年にするため奮闘する。
 どうぞよろしくお願いします。

 二〇〇〇年一月一日

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