現在、沖縄から西日本を中心に中国との戦争を念頭に置いた軍事態勢強化がすすんでいる。この戦争への策動を阻止しようと、軍事拠点化のすすむ各地で闘う団体が連携し、「戦争止めよう! 沖縄・西日本ネットワーク準備会」が結成されている。軍事化の現状や取り組みについて、ノーモア沖縄戦えひめの会の高井弘之さんに聞いた。(文責・編集部)
沖縄・西日本ですすむ臨戦態勢
沖縄の基地強化・軍事要塞(ようさい)化はこれまでも問題視されてきたが、近年はそれが西日本に拡大している。
大分県の陸上自衛隊湯布院駐屯地には今年度中に対艦ミサイル連隊が配備される。同時に、陸自大分駐屯地には大型弾薬庫が新設される。また今年3月、沖縄島の陸自・勝連駐屯地に地対艦ミサイル部隊が配備されるとともに、そこに合計4つの部隊を統率する地対艦ミサイル連隊本部が置かれた。「対艦」というのは中国の艦船への攻撃を念頭に置いたものだ。
広島県呉市では、日鉄の工場のあった広大な跡地に兵器の整備・生産機能も含む総合的軍事拠点建設の計画がある。また、海自呉基地に陸海空統合した沖縄への輸送部隊である海上輸送群が今年度中に配備される予定だ。
京都府精華町の陸自祝園分屯地でも長射程ミサイルの弾薬庫8棟の建設計画がある。
軍事演習も日常化している。10月23日から11月1日まで日米共同統合演習「キーン・ソード25」が行われる。これには日米の軍隊合わせて総勢4万5000人の兵士、 隻の軍艦、370機の軍用機が参加する。また、オーストラリア軍やカナダ軍も加わり、英仏独伊や北大西洋条約機構(NATO)などもオブザーバーとして参加予定だという。こうした軍事演習は中国との戦争を想定したもので、行われる場所も中国のすぐ目と鼻の先だ。
演習も実戦を想定した内容になっている。昨年11月に自衛隊統合演習が行われ、民間の岡山空港と大分空港が使用された。これは福岡県築上町の空自築城基地が戦争で攻撃され使えなくなった場合を想定したものだ。政府は、2022年末に決めた安保3文書に基づいて、平時から自衛隊や海上保安庁が使用可能な特定利用空港・港湾を指定し、民間空港・港湾の軍事拠点化をすすめている。民間航空機や民間船舶を使った実戦を想定した輸送訓練も続いている。
自衛隊司令部の地下化計画もすすんでいる。実際に戦争となって基地が攻撃されても戦闘を継続するためだ。かつての沖縄戦が連想される。
21年に共同通信社が、自衛隊と米軍が「台湾有事」を想定した日米共同作戦計画の原案を策定したことをスクープした。これによると、米海兵隊が鹿児島県から沖縄県の島々に臨時の攻撃用軍事拠点を置くという。先に述べた対艦ミサイルなどで中国の艦隊を攻撃する。すると中国から反撃されるので、自衛隊や米軍は次々と拠点を移す。当然、残された島民に向かって反撃のミサイルが飛んでくることになる。
戦争態勢・軍事拠点化がすすむにつれ、その大義名分として「防衛」を掲げても、住民の犠牲が前提となっていることがますます明白になっている。
米国の対中姿勢転換と「脅威論」
注目すべきこととして、報道機関は「米中の軍事対立」などと報じるが、その軍事的な対峙(たいじ)線は、米国の西海岸でもないし、太平洋の真ん中でもない。中国のすぐ近くだ。
今年の1月にNHKが中国の「A2AD(接近阻止・領域拒否)」と呼ばれる戦略について解説していた。これは、いわゆる「第1列島線」への米軍の接近を阻止し、この内側(東シナ海側)で米軍が自由に行動することを拒否するという内容。これに対し、米陸軍のローズ大佐は「米軍の改革はこのA2ADに対抗するように設計され、組織改編を進め練度を高めることで打ち崩すことができる」と語っている。
ここから、こんにちの米日の軍事態勢構築は、中国の防衛ラインを崩すために行われている攻撃的なものであることがうかがえる。
米国の対中姿勢は2010年代の半ばに変わった。それまで米国は自国を中心とする国際秩序に中国を包摂できると考えていた。しかし、中国の経済力や科学技術力の急速な成長をみて、世界における支配的な地位を中国に奪われるとの危機感・不安感が高まり、中国を軍事・経済・外交面で封じ込めて抑えつける体制の構築へと転換した。
しかし、そのような思惑を前面には立てられない。だから「中国の脅威」をあおり、「防衛」のためだとして軍備増強を正当化している。日本の政府やマスコミが「専制主義」「人権が守られない」「無法」「海洋進出を強めている」などと繰り返し、危険な「中国像」を国民に広げようとしているのはこのためだ。
これは、かつてナチス・ドイツのゲーリング最高幹部が「もちろん、国民は戦争を望みませんよ。(国民を戦争に参加させるには)国民に向かって、われわれは攻撃されているのだとあおり、平和主義者に対しては、愛国心が欠けているし、国を危険にさらしていると非難すればよいのです。このやり方はどんな国でも有効ですよ」と述べたことと重なる。
実際のところ、今の中国が日本を攻撃してくる理由は全くなく、中国がそのような態勢をとっているわけでもない。
「台湾危機」が盛んに叫ばれているが、それは主として 年3月に米インド太平洋軍司令官が米上院で「今後6年以内に中国が台湾を侵略する可能性がある」と証言してからだ。しかし、その後の6月には米統合参謀本部議長が米上院で「米国には現時点で(武力統一という)意図や動機はほとんどないし、理由もない」と証言している。「台湾危機」は米日の軍事態勢構築のための口実でしかない。
一方で、報道機関は米日の「挑発」はほとんど報じていない。21年10月には「中国軍機が台湾の防空識別圏に侵入」などとしきりに報道されたが、同時期に日米英など6カ国の海軍が中国近海で合同軍事演習を行っていたことはほとんど報じられていない。明らかに意図的だ。
歴史を振り返っても、中国は、日本や欧米のように他国への軍事侵略や植民地支配を行っていない。一方、米国はごく最近の例だけ見ても、アフガニスタンやイラク、リビアなどへの軍事侵攻を行っている。世界にとって、米日のどちらが「脅威」なのか。
私たちは、歴史と事実を冷静かつ客観的に見つめ、主観的な「中国脅威論」から脱し、中国攻撃態勢の推進を阻止するべきではないのか。
日米欧による東アジア支配150年の歴史の転換を
いま世界では、グローバルサウス(被侵略・被植民地国)の台頭と欧米日の後退という、「欧米の世界支配500年」「日米欧の東アジア支配150年」の歴史的転換期にある。こうしたなかで、西側・帝国主義国は世界支配維持への欲望が捨てられず、日本の保守層の一部も世界での軍事力行使を切望している。
欧米と共にアジアを侵略し続けた日本150年の歴史を転換し、平和と共生の東アジアを実現するためにも、東アジアでの戦争を止めるための取り組みを強めたい。