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映画紹介/『骨を掘る男』「戦没者に対する最大の慰霊は二度と戦争を起こさせないこと」

 初めて沖縄のガマに入ったときの異質な感覚を覚えている。ひんやりとした空気にひどく悪い足元。平和ツアーのガイドさんが落ちていたものを手に取って見せてくれる。陶器のかけらと風化しつつある人骨のかけら。ガイドさんが懐中電灯の明かりを消すと一切の光も音もなくなる。重く動かない空気に閉じ込められながら、ここは戦没者の体や魂が溶け込み眠っている場所なのだと思った。

 このような現場で、具志堅隆松さんは戦没者の遺骨を収集し続けている。これを彼は「行動的慰霊」と呼んでいる。地面を掘りながら、「これは乳歯だ。幼い子どもがかわいそうに。かんざしがそばにある。母親も一緒だったのか。キセルもある。オジイもいたのかも…」などと戦没者の最期に思いをはせる。

 具志堅さんの名前や活動については以前から知っていた。しかし、なぜ彼がこの活動を始めたのか、その経過や動機については何も知らなかった。この映画を見ればそれが分かるかと思っていたのだが、作中で詳しく語られてはいない。

 しかし、本作を見るにつれ、実は具志堅さんは自らの意思で遺骨収集をしているのではなく、戦没者に操られて遺骨を集めているのではないか……そんな霊的な空想が頭をよぎった。

 映画に印象的な場面がある。沖縄県名護市辺野古の新基地建設のための埋め立てに使う土砂を調達するため、2021年にある業者が沖縄本島南部の採石場での開発を県に届け出た。そこは具志堅さんが遺骨収集を行っていた場所。彼は県庁前でハンガーストライキを敢行し、玉城デニー知事に採掘中止命令を下すよう求めた。

 そこで具志堅さんは「デニーさん、たすきてぃくみそーれー(助けてください)」と繰り返し叫んだ。助けてくれ。それは現在を生きる具志堅さんの訴えではなく、地に眠る戦没者の訴えだ。彼が戦没者に思いをはせて代弁したのか、それとも戦没者が彼の体を借りて訴えたのか。私はスピリチュアルなことを信じてはいないが、 年以上も行動的慰霊を続けた彼だからこそ、現在と過去をつなく特別な能力が身に付いたのかもしれない。

 そんな具志堅さんは「戦没者に対する最大の慰霊は二度と戦争を起こさせないこと」と言い切る。これも、彼の言葉なのかもしれないし、戦没者が彼の体を借りて語っている言葉なのかもしれない。いずれにしても、戦後を生きる私たちはこの言葉をかみしめなければいけない。

 本作の奥間監督も具志堅さんの遺骨収集に同行する。作中には所々、時間の流れる速度が変わったり、現在なのか過去なのか、撮影者の視点なのか戦没者のものなのか、分からないような場面がある。これも、監督の技法なのかもしれないし、戦没者が監督を通じてやっていることなのかもしれない。どちらにしても映画制作が監督にとっての行動的慰霊なのだろう。

 本作を見た私たちにとっての慰霊は、やはり平和のために尽力すること以外にない。(T)


 沖縄戦の戦没者の遺骨を40年以上にわたって収集し続けてきた具志堅隆松さんを追ったドキュメンタリー。

 沖縄本島には激戦地だった南部を中心に、住民の人々や旧日本軍兵士、さらには米軍兵士、朝鮮半島や台湾出身者たちの遺骨が、現在も3000柱近く眠っていると言われる。28歳から遺骨収集を続け、これまでに約400柱を探し出したという70歳の具志堅さんは、砕けて散乱した小さな骨や茶碗のひとかけら、手榴弾(しゅりゅうだん)の破片、火炎放射の跡など、拾い集めた断片をもとに、その遺骨が兵士のものか民間人のものか、そしてどのような最期を遂げたのかを推察し、思いを馳せ、弔う。

 自身も沖縄戦で大叔母を亡くした映画作家・奥間勝也監督が具志堅さんの遺骨収集に同行して大叔母の生きた痕跡を追い、沖縄戦のアーカイブ映像を交えながら、沖縄の歴史と現在を映し出す。

2024年製作/115分/日本
監督・撮影・編集 奥間勝也
6月15日から全国で順次公開

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