社説

日米共同演習「キーン・ソード」など戦争態勢づくりを許すな 「日中再戦」を避けるため全力をあげ、国民的戦線形成を

 日米共同統合演習「キーン・ソード25」が10月23日から11月1日、日本全土で強行された。

 「台湾有事」を事実上想定し、日米両国の兵士4万5000人、軍艦40隻、オスプレイを含む軍用機370機を中心に、オーストラリアとカナダが加わる大演習である。

 2021年の日米首脳会談・共同声明で台湾問題を明記し中国の内政問題に公然と踏み込んで以降、菅・岸田政権は対中国の戦争態勢づくりを急速に進めた。「キーン・ソード」はその一環である。

 戦争態勢づくりを支えるためのプロパガンダも激化している。中国深圳市での児童刺殺事件、さらに中国軍による台湾周辺での演習を機に、支配層・マスコミは異常な中国敵視宣伝を強めている。

 まさに戦争と亡国への道である。

 中国との再度の戦争を避けるには、台湾問題への正しい対処が必要である。「台湾は中国の一部」という「一つの中国」の立場を堅持し、中国への内政干渉をやめるべきである。

 米戦略に加担し「大国化」を目指す戦争態勢づくりに反対し、「日中不再戦」、中国との友好関係を発展させる国民運動は、ますます喫緊の課題である。

日本全土が「対中出撃拠点」に

 「キーン・ソード」は、日米豪加が参加し、北大西洋条約機構(NATO)、英国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、リトアニア、インド、フィリピン、ニュージーランド、韓国がオブザーバー参加した。

 「台湾有事」を想定して策定された「日米共同作戦計画」に基づく大演習である。矢臼別(北海道)、三沢(青森)、佐世保・対馬(長崎)、那覇(沖縄)など、日本全土の自衛隊演習場・駐屯地が使われた。とくに沖縄・南西諸島は、奄美大島、徳之島から沖縄本島、石垣島、宮古島、与那国島に至るまで、陸海空全域で演習が強行された。

 軍用施設だけではない。全国30カ所以上の民間空港や港湾施設、さらに公的施設や病院、漁港なども使用され、軍用車両がわが物顔で公道を走り回った。

 演習内容も、中国艦への攻撃を想定したミサイル発射・移動訓練、滑走路復旧訓練、パラシュート降下訓練、患者輸送訓練、CBRN(化学・生物・放射線・核兵器)訓練など、実戦さながらの巨大演習である。

 日米合同演習や3カ国以上の多国間演習は、急速に規模と回数を拡大させ、年間140回を超えている。

 岸田前政権は「対中国包囲網」づくりを急速に進めた。

 「安保3文書」改定や軍事費大幅増、全国での弾薬庫建設、統合作戦司令部創設、フィリピンなどへの安全保障協議委員会(2+2)の拡大などだけではない。欧州・アジア・アフリカなどを股にかけた中国包囲網づくり、半導体を中心とする経済安保政策、福島汚染水放出など、枚挙にいとまがない。

 日米共同演習の強化はこの一環である。

中国敵視をあおるプロパガンダ

 中国包囲網形成を進める狙いから、中国敵視のプロパガンダも強まっている。

 マスコミなどは、中国の広東省深圳市で9月、児童が登校中に刺殺された事件を悪用し、「中国は危険」などとあおり立てている。

 被害者父親の「卑劣な人物の犯罪を理由に、日中両国の関係が破壊されることを望みません」という声は無視されている。「邦人の安全」など、プロパガンダの口実にすぎない。

 中国が10月中旬、台湾周辺で行った軍事演習「連合利剣」に対しても、マスコミは中国敵視の大合唱である。一方で「キーン・ソード」に関する報道はきわめて少ない。

 こうした洪水のような宣伝は、きわめてデタラメなものである。

 深圳事件は痛ましいもので、二度とあってはならない。だが、たとえば米国で邦人が犯罪に巻き込まれたとき、マスコミは騒ぎ立てるのか。首相が所信表明演説で言及するのか。政府・支配層の対応はきわめて異常である。

 それにとどまらず、マスコミの一部は明らかに「一線」を越えている。

 「産経新聞」は中国軍の演習に関する「主張」で、「米軍などが大陸の主要港湾への航路に機雷を撒(ま)くなどすれば、海を介した中国の輸出入の大半は途絶する」などと、中国を脅し、挑発している。「読売新聞」も中国軍の「台湾侵攻」を前提に、「必要に応じて防衛計画の見直しを進めることが欠かせない」などとしている。

 「読売」「産経」は、台湾有事に際して機雷敷設などの形で自衛隊が軍事介入することを当然のこととしているのである。「中国の内政問題に干渉して血を流せ」と言うのだ。

 さながら、旧日本帝国主義が中国侵略に突き進む過程で、軍部・マスコミが叫んだスローガン「暴支膺懲(ぼうしようちょう=横暴な中国をこらしめる)」のようである。

 政府・官僚機構も歩調を合わせている。

 石破首相は10月10日、ラオスのビエンチャンで李強・中国首相と会談した際、「台湾問題において日中共同声明を堅持するという日本の立場に変更はない」と述べている。当然の発言である。

 だが、マスコミがこの発言を報じないだけでなく、外務省のWebサイトにも記述がない。同サイトは、首相が中国軍の動向について「深刻な懸念」を伝えたなどと記すのみである。

 これらのプロパガンダは、戦時体制づくりのための思想攻撃である。国民の大多数が困窮するなか、その不満を、中国への敵視と排外主義という形でそらす狙いである。

 悪質なプロパガンダにダマされてはならない。

台湾問題への態度が肝要

 わが国が台湾問題への不干渉の態度を貫くことは、きわめて重要である。

 わが国は1972年の「日中共同声明」で、「中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認」した。さらに「(台湾が中国の領土の不可分の一部であるという)中国政府の立場を十分理解し、尊重」すると約束した。台湾を中国に返還するとした、「ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」とも言明している。

 こうした「一つの中国」の立場は、「日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」という、侵略戦争と植民地支配に対する反省と結びついたものでもある。

 これは、日中国交正常化と関係発展の基礎である。

 以降の日中間の「政治文書」でも、「一つの中国」の立場は繰り返し確認されている。国際社会でも、「一つの中国」の立場は定着している。

 だから、台湾問題は、純然たる中国の内政問題なのである。中国が台湾海峡の「主権と管轄権」を主張しているのも当然である。

 だとすれば、中国が国内と周辺で行う演習について、他国に非難される理由はまったくない。逆に、台湾海峡で日本などが軍事的デモンストレーションを行うことは、中国の内政に干渉する悪質な挑発である。

 だが、2021年の日米首脳会談の共同声明で「台湾海峡の平和と安定」が明記され、日米政府は中国の内政に踏み込むことを公然と宣言した。先の石破発言に対する外務省の態度は、「一つの中国」の立場を事実上破棄するものにほかならない。

 政府は「独立」志向を強める頼清徳・台湾当局を激励し、米国と共に中国を抑え込もうとしている。

 中国敵視の内外政策と闘うためにも、「一つの中国」の立場を堅持しなければならない。

米戦略に加担せず、中国との共生を

 こんにち、世界は歴史的変動期にある。中国・グローバルサウス諸国が急速に台頭、国際政治でも主導的役割を演じるようになった。米国を中心とする帝国主義が支配する時代は、黄昏(たそがれ)を迎えた。中国を抑え込もうとする米戦略は、歴史の歯車を逆回転させようとするものである。この戦略は、誰が大統領に当選しようと基本的には変わらない。わが国が米戦略に追随することは、時代錯誤の亡国の道である。

 米国に、単独で中国に勝ち抜く力はない。だから日本を利用し、前面に立てて中国と争わせ、「漁夫の利」を得ようとしている。

 わが国支配層は、中国に対抗して「アジアの大国」を夢想している。

 中国敵視の内外政策は、この狙いに沿ったものである。

 中国脅威論を振りまく支配層主流や政治家、マスコミは、国土、国民生活を「対中国戦争」に総動員しようとする売国奴である。

 中国はわが国最大の貿易相手国の一つで、国別投資残高でも第3位である。この中国との緊張激化は、企業、労働者、農漁民、青年学生など国民諸階層の生活を大きく揺さぶり、対応を迫る。

 財界や保守政治家内の分岐もさらに広がらざるを得ない。「(中国との)政治的な対話が非常に重要」(新浪・経済同友会代表幹事)などの意見は、強まるだろう。

 広範な国民運動で、わが国を「対中戦争態勢」から抜け出させることが必要である。

 しかし、野田代表率いる立憲民主党は「日米基軸」で自民党と同じで、中国敵視の軍備増強反対でも党内の意見の一致はない。総選挙では前進したが、自民党との政治的対抗軸は依然としてないままである。共産党は総選挙公約で「中国は覇権主義」と、プロパガンダの片棒を担いでいる。

 こんにち、全国で進む戦争態勢づくりに対し、各地で闘いが始まっている。

 沖縄県民は、中国との平和外交を求める闘いに立ち上がっている。

 「戦争止めよう! 沖縄・西日本ネットワーク(準)」は、中国脅威論に反対し対話を呼びかけている。「日中不再戦、平和友好を進める九州自治体議員の会(準)」も発足した。

 全国での運動の発展と連携強化が求められている。

 わが党はこうした動きを断固支持する。再度の日中戦争を回避するために力を結集し、最も広範な戦線をつくるために全力を挙げる。さらにわが党は、独立・自主で国民大多数のための政権を樹立するために闘う。

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