運動 インタビュー

急速に貧困化する国民生活 実態に関心寄せ、支援強化をーー清野 賢司・TENOHASI代表理事に聞く

 コロナ禍に続く物価高によって国民生活は急速に悪化しており、「新しい貧困」と呼ぶ識者もいる。最近の支援活動の実際などについて、豊島区で活動する特定非営利活動(NPO)法人・TENOHASI(てのはし)の清野賢司代表理事に聞いた。


ーーTENOHASIの活動について教えてください。

清野
 ホームレスを中心とする生活困窮者の支援団体として、2003年に結成されました。08年にNPO法人の認証を受けています。活動地域は、池袋を中心とする豊島区です。

 22年度までに、約12万5000食の炊き出し配食(月2回実施)を行っているほか、毎週の夜回り、一時住居を提供するシェルター、生活・医療相談、「居場所づくり」としての日中活動などを行っています。登録ボランティアの数は、約200人です。

 活動資金は、ほぼカンパで賄われています。

ーー生活困窮者支援のプロセスは、どのようになっていますか。

清野
 「ハウジングファースト型支援」が基本です。

 まず、路上やネット喫茶での生活から、ふつうのアパートに入居すること。次いで、生活保護の申請、住民票の復活、マイナンバーカードの取得、携帯電話の購入へと進むのが基本で、ここまでで約2〜3カ月です。その間に仕事を探し、自分のアパートに引っ越すという流れです。

 ただ、シェルターを利用された方の中で、失踪してしまうケースも %前後あります。自分のアパートに入られてからも、近隣とのトラブルを抱えたり、依存症から抜けられないなど、しばしば危機に陥ります。また、就労して生活保護からめでたく脱却できても、社会保険料や医療費などの負担が一気に来るので気を抜けません。息の長い支援が必要です。

ーー最近になって、炊き出しに変化があると聞きましたが、どのようなものでしょうか。

清野
 まずコロナ禍前は、炊き出しに並ぶ人は平均して170人〜200人でした。それが直近では530人〜550人、多いときは600人を超え、3倍以上に増加しています。聞くところでは、新宿でも約700人、浅草(台東区)でも以前の倍の人が食料を求めて来られるそうです。

 日本では、「炊き出しに並ぶのは恥ずかしい」という意識が強いにもかかわらず、「そんなことを言っていられない」という状況に追い込まれた。切羽詰まった生活を強いられている人が急増していることが分かります。

 TENOHASIでは、この状況を把握して以降の活動方針を決めるため、この3月に炊き出し利用者を対象に聞き取り調査を行いました。

ーーどのようなことが分かったのですか。

清野
 まだ集計途中なので、全体の報告はできないのですが……。

 まず、TENOHASI結成時、あるいは08年のリーマン・ショックのころは、炊き出しを利用する人の大部分がホームレスの方でした。

 ところが、3月の調査結果では、ホームレス状態の方は12%前後にすぎず、全体の約6割はアパートなどの住居に住んでいます。とはいえ、家賃と水光熱費、携帯電話代を払えばお金が残らないようなかつかつの生活で、安定した生活にはほど遠い方々です。

 2つ目に、豊島区とその隣接区(練馬・板橋・新宿・中野)よりも遠いところから来ている人が半数近くいました。これはあまり想定していませんでした。「第何土曜日は○○で」という情報を口コミで得て、わざわざ電車やバスや徒歩で来ている。そこまでして出費を節約したいという現実があるのでしょう。

 3つ目ですが、炊き出しに並ぶ人のうち、コロナ禍前からのいわゆる「常連さん」、コロナ禍のさなかから並ぶようになった人、コロナの第5類への移行( 年5月)以降に並び始めた人が、それぞれ約3分の1ずつとなっています。

 要するに3分の2がいわば「ニューカマー」で、それだけ生活が苦しい人が急速に増えた、貧困化が進んだといえます。物価上昇が急速に進む中、実質賃金は下がり続けていますし、生活保護費も上がっていません。それまでやっとのことで何とかやってこられた人々の、生活の「底が抜けた」といえるのではないでしょうか。

ーー健康事情はどうでしょうか。

清野
 以前は、医療相談に来た人が診断の結果、救急搬送されるケースが多数ありました。診療を待っているときに倒れる人もいて、さながら野戦病院のようでした。

 最近ではそういうケースは減っていますが、医療相談に訪れる人は約2倍に増加しています。相談者の健康状態は「低位安定」で、改善されているとはいえません。

 意外に思われるかもしれませんが、貧困のバロメーターは「歯の健康」にあらわれます。日々の生活に追われると、歯磨きに関心が向きません。虫歯などになっても歯医者に行けない。それで歯がどんどん抜けてしまう。知り合いの定時制高校の教師に聞くと、いわゆる「底辺校」では歯のない生徒が結構いるそうです。

ーー生活に困っている各地の人々、あるいは労働組合や地方議員に訴えたいことはありますか。

清野
 生活に困っていたら、まず連絡してほしいです。私たちは豊島区で活動していますが、各地の団体とネットワークをつくっています。全国どこからの相談でも、何らかの形で、身近な団体につなげることができると思うからです。

 また、企業・団体の皆さんには、資金や物資の提供をお願いします。

 地方議員の皆さんは、住民の生活に気を配ってほしい。加えて、生活保護を申請させない「水際対策」をやめさせ、きちんと申請できるように働きかけてほしいです。「水際対策」の程度は自治体によって大きな違いがある。まず地元の実態を把握してください。

 労働組合には、困窮者が労働市場からはじき出される前に相談に応じて、できることを行ってほしい。私も労働組合に所属していたことがありますが、とかく運動方針は「昨年の続き」になりがちです。日々変化する仲間の具体的な要求に応えないと、組織率は下がるばかりだと思います。

ーーありがとうございました。


特定非営利法人TENOHASI
・炊き出し 第2・第4土曜日 18:00〜
・生活・医療相談会 同 17:00〜
・衣類配布 第1土曜日 10:30〜  いずれも東池袋中央公園(豊島区東池袋316)
・おにぎり配り 毎週水曜日(夜回りも同日) 池袋駅前公園(豊島区東池袋1-50-23)

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