台湾問題は、米国による中国抑え込みのための口実
米国は「二つの中国」策動を系統的に進めている
米国の台湾関与は半導体産業、政局など全面的
冷戦崩壊後、米国は中国を新たな対抗相手と見定め、「東アジア戦略」(1995年)などで対抗とけん制を強めてきた。この戦略の下、アジアでの10万人規模の米軍駐留が維持された。
以降、リーマン・ショック(2008年)で米国の衰退があらわになるなか、中国は台頭を強め、米中関係は曲折を経た。
米国による対中「宣戦布告」
オバマ政権は「アジア・リバランス戦略」(2011年)を打ち出し、世界戦略の力点を中国への対抗とアジアでの権益確保に据えた。これは事実上、衰退する米国が中国を抑え込んで世界の支配を維持する狙いからの「宣戦布告」であった。ピルズベリー米国防総省国防政策委員会委員長による『China 2049』(2015年)は、その「教典」というべき著作である。
「米国第一」を掲げたトランプ政権は、政権成立後すぐさま、関税を中心に中国への対抗策を強化した。ペンス副大統領は2018年、中国が米国にさまざまな不利益を与えてきたと決めつけ、「そのような時代は終わった」と、対抗姿勢を鮮明にさせた。
バイデン政権となって、米国による中国敵視政策は、政治的包囲、経済、科学技術、「人権」問題などさらに全面的なものとなった。
新疆ウイグル自治区の民族問題をジェノサイド(大量虐殺)と決めつけ(2021年)、「ウイグル強制労働防止法」を制定して締め付けた。香港の「民主化運動」についても、さまざまな対中干渉を行っている。
米国による中国敵視政策のための最大の手段が、中国が「核心的利益」と位置づける台湾問題である。
台湾の「民主主義擁護」などは口実に過ぎない。米国の狙いは、台湾問題をあげつらって中国を攻撃することなのである。
米国による露骨な「台湾支持」政策
米国は政治・軍事・経済のすべての面で中国に対抗し、台湾問題を使って「一つの中国」の原則を、実質上放棄、あるいは空洞化させている。
台湾の「国際的地位」向上、「一つの中国」の実質的放棄
米国は中国の一部である台湾をあたかも「独立国」のように扱い、その国際的地位向上を露骨に支援している。
オバマ政権による「アジア・リバランス戦略」策定後の2015年、ソーントン米国務次官補代行は「台湾の民主主義」をたたえ、返す刀で中国を批判した。
トランプ大統領は2016年の当選直後、蔡英文からの「祝意の電話」を受けた(米側が電話をかけたという情報もある)。これは、1979年以来の慣例を破るものであった。
2018年には「台湾旅行法」が成立、あらゆるレベルの米当局者が台湾に渡航し会談すること、および台湾高官による米国入国を促した。これに基づき、トランプ政権の厚生長官や国務次官などの訪台が相次いだ。
トランプ政権末期には台湾保証法(2020年)を成立させた。台湾へ武器供与の継続に加え、「国際機関への台湾の有意義な参加を提唱」するとした。コロナ禍を口実に、米国が世界保健総会(WHA)への台湾の招待を「強く奨励」しているのは、このためである。
バイデン大統領の就任式には、台北駐米経済文化代表処の駐米代表が正式な招待の下で参加した。ブリンケン国務長官、オースティン国防長官候補(いずれも当時は候補)は指名公聴会で、台湾とは「接触する余地が未だ大きい」「(米台関係は)岩のように堅い」などと発言、中国への挑発を繰り返した。
バイデン政権が成立した2021年には、少なくとも9人の上下両院議員が訪台、一部では移動に米軍用機が使用された。同年末に開かれた「民主主義サミット」にも、台湾のタン「政務委員」が参加している。
2022年にはペロシ下院議長が台湾を訪問、バイデン政権は容認した。大統領継承順位2位の下院議長による訪問は、米国内での対中強硬論の高まりを印象づけた。
2023年には蔡英文が米国を訪問(立ち寄り)、米政府機関の訪問や各国国連大使を招いてのレセプション、大学での講演などが行われた。
2024年5月には、台湾の頼「総統」就任式に元政府高官を派遣、式後には多数の議員が訪台し、中国を露骨に挑発している。
米国による台湾の地位向上策は、系統的で執拗(しつよう)なものである。
台湾の半導体産業の取り込み
台湾当局は1970年代後半から、電子機器の受託生産、次いで半導体を戦略産業として育成した。この結果、台湾積体電路製造(TSMC)、聯発科技(メディアテック)などの半導体関連企業、鴻海科技集団(フォックスコン、シャープの親会社)のような電子機器受託生産企業が成長した。台湾は、世界の半導体受託生産で約65%(売上高で約33%)を占めるほどの「半導体製造大国」となっている。
米国はとくに1990年代以降、IT(情報技術)企業が急成長し、経済をリードするようになった。こんにち、GAFAM(グーグル=アルファベット、アップル、フェイスブック=メタ、アマゾン、マイクロソフト)やインテル、エヌビディアなどの超巨大企業が、金融と結びついて争奪を激化させ、世界を収奪している。
バイデン政権は2021年、「国家安全保障戦略指針(暫定版)」で、台湾を「経済、安全保障における死活的パートナー」と異例の表現であらわした。台湾は、米ハイテク企業にとって、基盤となる最先端半導体の重要生産拠点であり、その国際競争力は、台湾企業によって支えられている。
他方、中国は戦略計画「中国製造2025」を打ち出し、半導体の国産化を進めている。「産業のコメ」と言われるほどに経済において重きをなし、軍事的にも重要な半導体産業における中国のキャッチアップを阻止するため、米国は絶対に台湾を手放せないのである。日本もその「網」の中に取り込まれている。
台湾への軍事支援、安全保障上の関与
トランプ政権下の2017年、「国家安全保障戦略」で台湾に数行を割き、さらに翌年の「インド太平洋戦略フレームワーク」では、以下のように指摘し、台湾を最前線とする「中国封じ込め」をあらわにさせた。
- 第一列島線(注)内の有事における中国の持続した優勢を拒否する
- 台湾を含め、第一列島線の「国家」を防衛する
- 第一列島線を越えたところではすべてのドメインを支配する
台湾保障法による軍事支援の強化ついては、すでに述べた通りである。トランプ政権下での台湾への武器売却額は、オバマ政権時代の約2倍に達した。
さらにバイデン政権になると、インド太平洋軍司令のデビッドソン海軍大将が「6年以内に人民解放軍による台湾侵攻があり得る」と発言(2021年3月)、これを機に「台湾有事」があおられる頻度が急増した。これと結びついて、M109自走りゅう弾砲の供与や、弾道ミサイルパトリオットの改修協力が行われた。海兵隊が台湾と合同訓練を実施するなど、協力範囲も拡大した。バイデン政権は2023年だけで、台湾に3億4500万ドル(約543億円)の軍事援助を行っている。
台湾への米軍駐留は、「上海コミュニケ」で「段階的撤退」がうたわれている。だが、蔡英文「総統」は2021年10月、「台湾軍の訓練のために」米軍が駐留していることを認めた。台湾への米軍の駐留は、以前から「公然の秘密」とされてはいた。それでも蔡英文が公然と認めたことは、これによる米軍の「抑止力」を期待してのものである。
台湾政局への揺さぶり
米国は、台湾「総統」選挙に「中国からの干渉」があるなどと非難している。だが、米国は「第2のCIA(中央情報局)」と呼ばれる全米民主主義基金(NED・1983年設立)などを通じて、世界の「民主化」運動支援に資金を提供している。中国本土でのチベット・新疆ウイグル両自治区での「人権」問題だけでなく、台湾に対しても同様である。
NEDは2003年、資金を提供して「台湾民主基金会」(TFD)を設立させた。TFDはNEDの出先機関で、「さまざまなプロジェクトの推進で協力し、インド太平洋地域における民主主義の普及に努めている」(台湾「外交部」)。2023年、蔡英文はTFDの20周年会議で演説し、NEDによる「揺るぎない支持に感謝」している。
最近のNEDやTFDの活動例をあげれば、今年5月以降、台湾で浮上した「立法院」改革案に反対する抗議デモがある。遠藤誉・筑波大学名誉教授は、抗議デモは、米国が国民党など野党が多数を占める議会情勢を揺さぶり、頼当局・与党(民進党)に有利になるよう意図した背景があると指摘している。
台湾では若年層を中心に「民進党は中共(中国共産党)が台湾に干渉していると批判しているが、米国が内政干渉するのは良いのか?」といった声が盛り上がっているという。
以上、述べてきたことは、中国へのあからさまな内政干渉である。もちろんこの時点では、米国は中国との全面的な対決を望んでいない。2022年秋の米中首脳会談、2023年のブリンケン国務長官の訪中などはそのあらわれである。
台湾海峡情勢を緊張させているのが米国であることは、経過を見ても明白である。米国の策動を暴露し闘わない限り、アジアの平和を実現することはできない。(K・終わり)
(注)第一列島線 中国が独自に設定した軍事的防衛ラインの一つ。九州沖から沖縄、台湾、フィリピンを結んで南シナ海に至る線。