インタビュー 青年学生

博士学生の国籍差別施策に反対 中国人留学生も未来支える仲間ーー大室恵美さん(お茶の水女子大学大学院)

 文科省は今年6月、博士課程に進学する学生に対し経済的な支援を行う制度「次世代研究者挑戦的研究プログラム(通称SPRING)」について、生活費の支給対象を日本人学生に限定する方針を決定した。この国籍差別的な施策に対し、撤回を求める学生らの取り組みも広がりをみせている。運動の意義などについて、路上アクションの呼びかけ人であるお茶の水女子大大学院博士後期課程の大室恵美さんに聞いた。(文責編集部)

7/30には文科省前でSPRING改悪反対を訴える緊急集会が行われ、のべ100人が参加した。
文科省に1万9300筆超の反対署名を提出したことを報告する大室さん。
7/25には文科省前でSPRING改悪反対のスタンディングアクションを行い、一部参加者は朝鮮学校への高校無償化の適用を求める金曜行動にも連帯し参加した。

【関連】JST-SPRING国籍要件反対アクション

事実上、中国人留学生を狙い撃ち

 SPRINGの見直しは、今年3月に自民党の有村治子参院議員が外交防衛委員会で見直しを求めたことに端を発しています。

 このとき有村氏は、「国民生活が厳しさを増すなか、日本の学生を支援する原則を明確に打ち出さなければ(国民の)理解が得られない」などと主張すると同時に、SPRINGの支給を受けている1万人余り(2024年度)のうち約3割が中国からの留学生だと文科省に答弁させています。この問題化において中国人留学生が名指しされたことは、日本がかつて侵略、植民地化を進めた中国への、継続する植民地主義の表れのようにも思えます。すでに各所で指摘されている通り、これが例えば欧米諸国の白人留学生だったらこのように攻撃されたでしょうか。

 この見直しの目的は、日本人学生を支援する資金の捻出というより、日本人支援を名分とした外国人排除だと考えられます。1万人のうちの3割、つまり3000人を日本人に割り振ったとしても、全国で約7万人いる博士課程生の0.4%にしかなりません。

 SPRINGの根拠法には「多様な人材」などのことが書かれていますが、「日本人限定」のような記述は全くありません。にもかかわらず、有村氏への答弁後、文科省は国籍差別施策を道理があるかのように強行しようとしています。またこの運用の変更は一部の文科省官僚によって一方的に決定・実行されようとしています。留学生どころか日本人の博士課程生にすら聞き取りを行っていないことも判明しています。この見直しは内容的にも手続き的にも大きな問題があると思っています。

排外主義への危機感が運動後押し

 今回の件以前に、日本の大学や研究機関の博士課程のあり方には多くの問題が指摘されてきました。

 世界の多くの国では、博士課程には給与か給付型の奨学金が出る仕組みになっています。国によって、あるいは理系か文系かによって違いはあるのですが、博士課程の学生が研究活動をしたり論文を書いたりすることは「知的生産」であり「労働」と見なされて対価が支払われ、労働法制も適用されます。

 一方、日本では「研究者」ではなく「学生」とみなされるので、給与が支払われるどころか国立でも年間約50万円の授業料を支払わされます。さまざまな奨学金や奨励金などはありますが、それを得るためには、応募・書類審査・プレゼンと、他の大学院生と競って勝ち取る必要があります。国際的潮流からすると、日本の研究環境は世界基準のスタートにすら立てていません。

 SPRINGからの支援を得るにも厳しい競争があり、生活費の支援を受けている留学生は博士課程の院生のごく一部です。しかも、当事者である留学生は去年の入管法改悪などの影響もあり、表立って意見表明しづらい弱い立場にあります。

 このようなこともあり、私は見直し反対の運動を呼びかけたものの、ほとんど社会的に注目されず、運動に加わってくれる人もごく少数となることを懸念していました。

 しかし予想に反し、6月28日に開始したオンライン署名は約10日間で5000筆を突破し、7月2日に東京で行った街頭宣伝はテレビや新聞などでも取り上げてもらえました。

 これには、直接の当事者ではない人たちが「差別はよくない」と積極的にネットで情報を共有してくれたり、大学の学費値上げに反対する運動に取り組んでいる学生がこれまでのツテを使って報道機関に情報を流してくれたりしたことも大きいと思います。また報道機関の側も、今回の参院選で「日本人ファースト」など排外的なスローガンを掲げる風潮が高まったことに対する危機感があったのかもしれません。

 25日には文科省前で反対スタンディングアクションを行い、約80人が参加しました。また参加者の一部はこの直前に行われた朝鮮学校への高校無償化の適用を求める金曜行動にも連帯し参加しました。

 朝鮮高校の無償化排除とSPRING見直しは、差別の歴史的経緯や排除のあり方として同列には語れませんが、国の教育政策における差別という点では共通するものがあります。国が行う差別は民間の差別にお墨付きを与え、扇動するものとなり、極めて問題があります。

 これからも取り組みを広げ、SPRING見直しの撤回を勝ち取るとともに、国が率先する外国人差別にノーを突き付けていきたいと思っています。

留学生も研究で日本社会に貢献

 私自身は、日本におけるジェンダー研究を植民地主義の観点から、そして日本の植民地支配をジェンダーの観点から、問い直しています。

 私は社会人を経由して博士課程に来ましたが、会社員時代と比べても今の生活が最も厳しいと感じます。休日がなく常に競争に駆り立てられ、経済的にも余裕がないからです。

 それでも研究活動を続けているのは、研究によって新しい見地を得ることが好きだということもあるのですが、研究を積み重ねることで少しでもこの社会・世界に貢献できるのではという思いがあるからです。これまでも歴史がそうでしたし、未来もそうであると信じているからです。

 そのような思いは、おそらく多くの博士課程の大学院生が抱いていると思っています。そうした希望があるので、厳しく先の保証されない研究生活を、大学院生同士がお互いに励まし支え合って乗り越えようと頑張っています。

 私の研究室では、その仲間の半分ほどは中国人留学生です。かのじょらの残す研究成果はこの日本社会に蓄積され財産となるでしょう。留学生を受け入れることは日本社会にとって利益になるのです。ただ、日本社会の利益になるかどうかを基準に、支援をするかしないか判断すべきではないことは前提として確認しておきたいです。

 また、博士課程の中国人留学生のほとんどは、日本で研究職に就き、日本に骨をうずめる気持ちと覚悟を持って留学しています。中国人留学生は共に日本の学術界を、日本社会の未来を支える仲間であるという視点も、ぜひ皆さんに持っていただけたらと思います。

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