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【東京】日藝映画祭2024「声をあげる」開催

 日本大学芸術学部映画学科「映画ビジネスⅣ」ゼミ(古賀太教授)による「日藝映画祭2024」が、12月7日から行われる。第14回目である本年のテーマは「声をあげる」で、社会に対して自らの意思を示す人びとを描いた映画が集められている。本年のテーマや上映作品について、学生に聞いた。(文責・編集部)


映画祭を企画・運営する映画ビジネスⅣゼミの皆さん

ーー本年の「声をあげる」というテーマは、どのようにして決まったのでしょうか。

溝手連さん 企画は当初、パレスチナ問題として提案しました。
 きっかけは、米国の大学生によるパレスチナ連帯デモをニュースで見たことです。同じ大学生が社会に対して声を上げているとき、自分が「静観している」ことに危機感を覚えました。
 ゼミメンバーの反応はすごくよかったのですが、テーマはそこから3つに分かれました。パレスチナ問題だけを扱うというものと、「虐殺、殺すな」「声をあげる」です。
 同世代の学生には、政治に対して「触れにくい」という感覚が強いと思います。その状況でパレスチナ問題だけに集中すると、多くの人が目を向けてくれるのかどうか。むしろ「声をあげる」という広い視野でとらえたほうが、若者に届くのではないかと考えました。今回の企画は、とくに同世代の若者たちに見てほしいと思っています。

ーー「声をあげる」というテーマに決まり、どう感じていますか。

溝手さん 昨年の映画祭は「移民とわたしたち」、一昨年は「領土と戦争」というテーマでした。パレスチナ問題自身が、戦争によって土地を奪われ難民になっている人びとの問題です。
 その意味で、これまで映画祭で数年にわたって行われてきたテーマを集大成したものといえるかもしれません。

ーーテーマについて、他の方はどう感じましたか。

清水千智さん 溝手くんと同じで、米国だけでなく、東大などでもデモが行われていることを知り、興味を持ち始めました。自分がそこに参加しない、興味を持たないということは「違うのではないか」と思いました。今回を、運動に関心を持つ機会にしたいと思います。

栗原和葉さん 最初は「虐殺、殺すな」というテーマで準備していました。このテーマに沿った映画はショッキングなものですので、見れば誰でも無視できなくなります。
 ただショックを受けたとしても、その後、何をしてほしいのか。それだけでは、見た人にできることはない。でも、ショックを受けてもそこから立ち直る、自分たちで声を上げて現状を変えていった人びとの姿を見てもらった方がよいのではないかと思いました。そこで「声をあげる」というテーマに賛成しました。

秦優香さん 私は「死を見つめる」という別のテーマで準備していました。パレスチナ問題には疎かったですし、安楽死・尊厳死問題の方が当事者意識を持つ人が多いのではないかと思っていました。ただ、学生が取り組む課題として何がふさわしいのかと考え、最終的に「声をあげる」に賛成しました。

石川祥さん 私も「死を見つめる」で準備していました。清水さんから「目の前で起きているパレスチナ問題を『身近』と感じられない現状にこそ、危機を感じるべきではないか」と言われ、ハッとしました。

ーー作品を選定する際に、留意したことはありますか。

溝手さん 選定の際には、学生運動、ホロコースト、韓国民主化運動などといった「枠」を設けて選ぶ方法を取りました。選ぶ際には、動画配信サービスでは見ることができない作品や、スクリーンではほぼ見られない作品、日本での上映権が喪失している作品を重視しました。
 全体的にドキュメンタリー作品多いのですが、私達は「演技ではなく」、実際に声を上げた人びとに魅力を感じています。
 「蟹工船」が最も古く「SHE SAID」が最新ですが、この間に流れる年月で何が変わったのか、感じ取ってもらえるとうれしいです。とくに、ネットの時代になったことで、運動のスタイルも変化したと思います。

ーー最後に、来場者へのメッセージをお願いします。

溝手さん 発端はパレスチナ問題ですが、この問題を直接に扱った映画は1本だけです。それでも、どの作品を見たとしても、現在の自分たちに置き換えたとき、何に声を上げなければいけないのかということを考えていただければと思います。
 映画を見ることも「声をあげる」ことの一環として、お客さんとともに考えていきたいです。

ーーありがとうございました。

上映作品と担当学生によるオススメの一言

・蟹工船(1953年・日本)
 労働者の正当な抗議が暴力で圧殺される結末に考えさせられる(門田あみさん)
・日本解放戦線・三里塚の夏(1968年・日本)
 ドキュメンタリーの巨匠・小川紳介によるエネルギッシュな作品(佐々木嘉那さん)
・日大闘争、続日大闘争(1968年・日本)
 日大の先輩たちによる、歴史的事実の大切な記録(天尾頼生さん)
・水俣―患者さんとその世界―(1971年・日本)
 現在も続いている水俣病問題。普通の人びとが上げた声を聞きたい(松澤梨々さん)
・憎しみ(1995年・フランス)
 移民青年に対する警官の暴力と憎しみの連鎖。インパクト大です(石川祥さん)
・ソビブル、1943年10月14日午後4時(2001年・フランス)
 ユダヤ人の反乱が成功した唯一例。暴力の意義を考えさせられる(今岡崇さん)
・沈黙を破る(2009年・日本)
 パレスチナを破壊したイスラエル将校の証言がショッキングな作品(栗原和葉さん)
・マイ・バック・ページ(2011年・日本)
 ジャーナリストと活動家の交流を通して、正義とは何かを問い直す(近藤憲知さん)
・マッドマックス 怒りのデス・ロード(2015年・米国)
 資源争奪や階級対立などの要素が盛り込まれたバイオレンス作品(森戸理陽さん)
・首相官邸の前で(2015年・日本)
 日本で起きた脱原発運動。記憶に新しく、パワーを感じる(清水千智さん)
・1987、ある闘いの真実(2017年・韓国)
 韓国民主化に至る流れ、その中での人びとの成長が理解できる(緒方陽菜さん)
・燃えあがる女性記者たち(2021年・インド)
 カースト最下層の女性が運営する新聞社のドキュメンタリー(藤井柚楽さん)
・時代革命(2021年・香港)
 「顔出しなし」で取材に応じる、行政区状況の厳しさがうかがえる(秦優香さん)
・SHE SAID/シー・セッド その名を暴け(2022年・米国)
 #MeToo運動が題材。一人でも声を上げることの大切さが分かる(仕黒京香さん)

日藝映画祭2024

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